22/04/2019
――自分で特許出願をしたいと思っています。難しいものでしょうか?
――特許実務の経験がない人には難しいと思います。仮に審査を通ることがあったとしても、権利が狭くなるようなことが多く、良くないと思います。
▽特許出願は、『明細書』と『特許請求の範囲』という書類を必ず提出します。これを書くのが見た目以上に難しく、初心者ではなかなか十分なものになりません。それぞれについて説明します。
▼『明細書』について
『明細書』には、特許発明の技術内容を詳しく書きます。
▽原則として、技術を文章で説明します(必要に応じて『図面』をつかいます)。つまり、非言語なものである「技術」を言語化します。誰でも子供のころから使っている日本語です。でも、これを書くには、けっこうな特殊技能が必要です。
たとえば、自転車のブレーキを考えてみましょう。「ハンドルについたレバーを引けば、それがワイヤーで伝わってゴムがリムを挟む」という程度では、明細書に必要なレベルで言語化したことになりません。レバーの構造はどうなっているか、レバーをどの方向にどの程度引くか、ワイヤーはどのように力を伝えるのか、そのときワイヤーを通すチューブと中のワイヤーはどのような力学的な関係なのか、ブレーキ本体の構造はどうなっているか、ワイヤーで伝わった力はブレーキ本体をどのような仕組みで動かすのか、その結果ゴムがどうリムに作用するか…など、すべて逐一ことばで説明しなければなりません。
プロが書いたものは、あたりまえのことがあたりまえに書いてあって、するする読めてしまうかもしれません。でも、慣れない方が書こうとすると、十分に言葉にならないでしょう。小説がすらすら読めたとしても、書けませんよね? 同じことだと思います。
▽また、自分にとってあたりまえのことであるほど、ことばでは説明できません。
たとえば、助詞の「は」と「が」は、日本語ネイティブならあたりまえに使い分け、間違えることはありません。これを、どんな基準で使い分けていますか? どういうときに「は」で、どういうときを「が」にしますか? 明確なことばで説明できるでしょうか?
技術も同様です。その分野のエキスパートになればなるほど、その技術についてあたりまえのことが増えます。膨大な非言語情報が、ごく当然のこととして意識されなくなってしまいます。それを逐一ことばにするのが困難になるのです。
▼『特許請求の範囲』について
『特許請求の範囲』では、特許発明の権利範囲を明らかにします。
▽技術の権利取得したい部分を、日本語で文章化します。あくまで言葉がベースです。図面はつかえません。これをどう書くかで、権利が狭くなったり、不明確になったりします。
たとえば、写真加工システムで、特許請求の範囲に『加工した画像をプリントすることを特徴とする』と書くと、「プリントせずに画面に表示するだけのタブレット」は、原則として権利に入りません。抵触しないということです。「画像をプリント」しないからです。
解りやすい例なので、自分はそんな書き方はしない、と思われるかもしれません。でも、このようなことはよく起こります。扱うのが言語なので100%の正解もありません。プロでも非常に気を遣うところです。
▽特許請求の範囲では、技術を抽象的にとらえ、汎用性のある言葉をナチュラルにつかって書く必要があります。
技術者は、開発した技術の具体的な状態をそのまま言葉にする傾向があります。これは、権利範囲をいたずらに狭くしてしまいます。また、自社で使われる言葉をそのまま使ってしまうことがあります。一般に通じない、不明確な表現になってしまうでしょう。