07/08/2026
旧下請法から「取適法」へ。中小受託事業者からの「値上げ要請」を放置する委託事業者の末路
暑さが続く8月ですが、お盆休みを挟んで下半期の取引に向けた契約更新や単価の見直しに向けた協議が本格化する時期でもあります。
昨今の原材料費や人件費の高騰を受け、取引先(中小受託事業者)から「これまでの単価では厳しいので、値上げをしてほしい」という要請を受けるケースが増加しているのではないでしょうか。
ここで知っておかなければならないのが、2026年1月に旧下請法が改正・施行された「中小受託取引適正化法(通称:取適法)」の存在です。「トリテキホウ」という名前で覚えておられるかもしれません。従来の資本金基準に加え、新たに「従業員基準(300人/100人等)」が設けられ、特定運送委託も対象に加わったことで、これまで対象外だった企業も新たに規制対象となる可能性が増加しています。「昔からの付き合いだから」と要請を放置していると、厳格化された新法のもとで企業存続に関わる重大なダメージを受けるリスクがあります。
コスト高騰の局面において、発注側(委託事業者)の企業は、以下の3つのポイントを厳格に認識しておく必要があります。
① 新設された「協議拒否・据え置き」の禁止行為と「買いたたき」
取適法では、通常支払われる対価に比べ著しく低い製造委託等代金を不当に定める「買いたたき」(法第5条第1項第5号)が引き続き禁止されています。それに加え、最大の目玉として「協議に応じない一方的な代金決定」が独立した禁止行為(法第5条第2項第4号)として新設されました。中小受託事業者が代金額の協議を求めたにもかかわらず、委託事業者が説明や情報提供を行わず、一方的に代金を決定(据え置きを含む)した場合、法令違反と判断され得ます。「返事をしない」「担当者不在を理由に逃げる」といった対応は極めて危険です。
② 取適法上の「発注書面の明示(第4条)」と交渉経過の「記録保存」
委託事業者は、製造委託等をした時点で、直ちに給付内容・代金額・支払期日等を記載した発注書面等を明示する義務があります(取適法第4条)。この明示は、中小受託事業者の承諾の有無にかかわらず、電子メールやSNSメッセージ等の電磁的方法によることが可能となりました(口頭のみは不可)。また、価格改定協議が行われた場合、法定の書類保存義務(第7条)への対応に加え、協議拒否の嫌疑を晴らすための防御資料として、交渉の経緯や価格を据え置いた理由などを客観的な記録として残す実務が重要になります。
③ 「勧告・公表」と「罰金(刑事罰)」の明確な制裁ルート
新法における制裁リスクは、大きく2つのルートに分かれます。
第一に、協議拒否や買いたたき、あるいは「振込手数料を合意の有無にかかわらず差し引く」といった不当な減額などの「禁止行為」に対しては、公正取引委員会から減じた額の支払い等の原状回復を求める勧告がなされ、その事実が一般公表されることで、レピュテーションリスクを負います。 第二に、第4条の発注書面の不交付・記載不備や、第7条の書類不保存といった「手続的義務違反」に対しては、従来同様に50万円以下の罰金(刑事罰)が科される規定が用意されています。行政措置(公表・原状回復勧告)と刑事罰(罰金)、そして信用失墜という3つのリスクが企業を待ち受けているといえます。
「コスト削減」は企業の至上命題ですが、優越的な地位を利用して中小受託取引の不公正化を招く行為は、新法下では断じて許されない時代となっています。
弁護士法人ブライトでは、取適法に対応した取引基本契約書のレビューや、価格交渉に関する社内マニュアルの策定、新たな従業員基準に基づく自社の適用該当性チェックなどを支援しています。
(パートナー弁護士 笹野 皓平)