15/05/2026
「パワハラ・セクハラの判断」 ~「これってハラスメント?」
はじめに
本記事は、中小企業の総務・人事担当者の方を対象に、職場のハラスメント対策をわかりやすく解説することを目的としています。
前回は、ハラスメントの基礎知識と、企業に課せられている法的義務の全体像をお伝えしました。
今回は、パワーハラスメント」と「セクシュアルハラスメント」に焦点を当てます。
現場でよく聞かれるのが、「これってパワハラになるの?」「どこまでが指導で、どこからがハラスメントなの?」という疑問です。
そこで、今回は、具体的な事例を使いながら、判断基準をわかりやすく解説します。
第1 パワーハラスメントの判断
1.パワハラの3要素をおさらい
第1講でも触れましたが、パワハラが成立するには3つの要素がそろう必要があります。
① 優越的な関係を背景にした言動
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
③ 労働者の就業環境を害する言動
この3つがそろって、はじめてパワハラと判断されます。 逆に言えば、どれか一つでも欠ければ、法的なパワハラには該当しないということです。
ここで重要なのが、「②業務上必要かつ相当な範囲を超えているかどうか」の判断です。
2.パワハラの6類型と具体例
厚生労働省は、パワハラを6つの類型に分類しています。
一つずつ、具体例とともに確認しましょう。
【類型①】身体的な攻撃
❌ パワハラになる例:部下のミスに激怒して書類を投げつける、肩を強くつかんで怒鳴る
✅ パワハラにならない例:業務上の必要から、安全のために腕をつかんで危険を回避させる
ポイント:身体への直接的な接触・暴力は、業務上の必要性がほぼ認められないため、パワハラに該当します。
【類型②】精神的な攻撃
❌ パワハラになる例:「お前は使えない」「バカか」と人格を否定する言葉を繰り返す、大勢の前で長時間叱責する
✅ パワハラにならない例:ミスに対して「なぜこうなったか、次はどうすればいいか」と具体的に指導する
ポイント:「人格の否定」と「行動・業務への指摘」は明確に区別されます。厳しい言葉でも、業務改善を目的とした具体的な指導はパワハラになりません。但し、具体的状況に応じて、節度ある言葉(質)、時間(量)に注意する必要があります。
【類型③】人間関係からの切り離し
❌ パワハラになる例:特定の従業員だけを会議に呼ばない、チームのグループチャットから外す、無視を続ける
✅ パワハラにならない例:懲戒処分中の業務制限として、一時的に特定業務から外す(合理的な理由がある場合)
ポイント:「孤立させる意図」があるかどうかが判断の鍵です。
【類型④】過大な要求
❌ パワハラになる例:新入社員に対して、経験者でも困難な業務量を一人で課す、達成不可能なノルマを設定して未達成を責める
✅ パワハラにならない例:業務上の必要から、繁忙期に残業を依頼する(適正な範囲内)
ポイント:「その人のスキル・経験に対して、明らかに不相当な要求かどうか」が判断基準です。
【類型⑤】過小な要求
❌ パワハラになる例:管理職を突然、清掃業務だけに配置転換する、能力のある従業員に意図的に仕事を与えない
✅ パワハラにならない例:体調不良の従業員に対して、回復期間中は軽易な業務を担当してもらう
ポイント:「嫌がらせの意図があるかどうか」「業務上の合理的な理由があるかどうか」が判断の分かれ目です。
【類型⑥】個の侵害
❌ パワハラになる例:従業員の交友関係・恋愛・家族関係を執拗に聞き出す、休日の過ごし方を管理しようとする、性的指向・ジェンダーアイデンティティ(SOGI)を本人の同意なく暴露する(アウティング)
✅ パワハラにならない例:業務上必要な範囲で、緊急連絡先を確認する
ポイント:2026年の指針改正により、SOGIに関するアウティングは明確にパワハラ・セクハラとして定義されました。特に注意が必要です[2]。
3.「グレーゾーン」の判断方法
現場でよく問題になるのが、「パワハラかどうかわからない」グレーゾーンのケースです。
判断に迷ったときは、以下の3つの問いを使ってみてください。
問い①:業務上の目的・必要性はあるか? 業務改善・安全確保・教育など、合理的な目的があるかを確認します。
問い②:手段・程度は適切か? 目的に対して、言動の強度(質)・時間ないし頻度(量)・方法(衆人の面前か時機ないし時刻が相当かを確認します。
問い③:受け手がどう感じるかを考慮しているか? 「自分はそのつもりはなかった」は免責になりません。受け手の立場から見て、就業環境が害されていないかを確認します。
この3つの問いに照らして、目的は正当でも、「手段が不相当」であればパワハラになり得ます。
第2 セクシュアルハラスメントの判断
1.セクハラの2類型
セクハラには、大きく分けて2つの類型があります。
【類型A】対価型セクシュアルハラスメント
性的な言動への対応を条件として、採用・昇進・降格・解雇などの労働条件に影響を与えるものです。
例:「付き合ってくれたら昇進させる」「断ったから今回の昇格はなし」
【類型B】環境型セクシュアルハラスメント
性的な言動によって、就業環境が不快・苦痛なものになるものです。
例:職場に性的な画像を貼る、容姿や体型についての発言を繰り返す、性的な冗談を言い続ける
2.セクハラの具体例と判断のポイント
ここで、現場でよく問題になる具体例を見ていきましょう。
【ケース1】飲み会での言動
上司が部下に対して、「彼氏いるの?」「結婚しないの?」と繰り返し聞く。
→ 判断:状況によってはセクハラに該当する可能性があります。 一度聞くだけなら問題にならない場合もありますが、繰り返し・執拗に聞く場合は、就業環境を害するセクハラになり得ます。
【ケース2】SNSでの連絡
採用担当者が、選考中の求職者に対してSNSのDMで「今夜飲みに行きませんか?」と誘う。
→ 判断:就活ハラスメント(求職者等セクハラ)に該当します。 2026年10月以降、採用活動における求職者へのセクハラ防止措置が義務化されました。 採用担当者・面接官への研修が不可欠です。
【ケース3】「冗談のつもり」の発言
男性上司が女性部下に「最近太った?」「その服、似合わないね」と言う。
→ 判断:セクハラに該当する可能性があります。 「冗談のつもり」「親しみを込めて」という意図は、免責になりません。 受け手が苦痛に感じれば、セクハラになり得ます。
【ケース4】同性間の言動
男性上司が男性部下に対して、性的な冗談を繰り返す。
→ 判断:セクハラに該当します。 セクハラは異性間だけでなく、同性間でも成立します。 また、性的指向・ジェンダーアイデンティティに関わらず、すべての労働者が保護対象です。
ポイント:性的な言動は、業務上の必要性がほぼ認められないため、相手が苦痛に感じたならば、セクハラに該当します。
3.セクハラ対応で人事担当者が特に注意すべきこと
セクハラ案件を扱う際、人事担当者が特に注意すべきポイントが3つあります。
① 被害者の意向を最優先にする
被害者が「大ごとにしたくない」と言っている場合でも、会社として事実確認と再発防止の義務があります。 ただし、被害者の意向を無視して強引に調査を進めることは問題です。 「どこまで調査するか、手続を進めるか、被害者と丁寧に合意形成する」ことが重要です。
② 二次被害を防ぐ
調査の過程で、被害者が「なぜ断らなかったの?」「あなたにも問題があるのでは?」と責められるような対応は、二次被害にあたります。 相談窓口担当者への研修で、この点を徹底してください。
③ 行為者への対応も慎重に
行為者が「そんなつもりはなかった」と主張する場合でも、事実確認を丁寧に行い、証拠に基づいた公平な判断をすることが求められます。 感情的な対応や、一方的な決めつけは、後の訴訟リスクを高めます。
第3 まとめ
【第2講のポイント整理】
✅ パワハラは「①優越的関係、②相当範囲超過、③就業環境悪化」の3要素で判断する
✅ パワハラ6類型は「①身体的攻撃、②精神的攻撃、③人間関係の切り離し、④過大な要求、⑤過小な要求、⑥個の侵害」
✅ グレーゾーンは「①目的の正当性、②手段の相当性、③受け手への配慮」の3つの問いで判断する
✅ セクハラは「①対価型」と「②環境型」の2類型があり、同性間・求職者へも適用される
✅ セクハラ対応では「①被害者の意向尊重、②二次被害防止、③公平な事実確認」が鉄則
ここで、一つ大切なことをお伝えします。
ハラスメントの判断で最も危険なのは、「自分の感覚」だけで判断することです。
「これくらい普通だろう」「昔はもっと厳しかった」という感覚は、時代とともに変わっています。
大切なのは、「一般的社員ならどう感じるか(さらに、当の受け手がどう感じるか)」「社会通念上、相当な範囲かどうか」という視点です。