06/08/2016
区域内の営業損害「終期」についてコメントです。(備忘録として)
第1 避難指示区域の営業損害
1 避難指示区域内の事業者が,①解除後,帰還し事業を再開できない理由,②移住先で事業を再開出来ない理由はどこにあるのか。
日頃の相談の経験から
(帰還し事業再開することが容易でない理由)
1. 仕入先や販売先の範囲が,自己の営業拠点と同一,又は,近隣にとどまり,その取引先や顧客の多くも避難を余儀なくされ,原発事故による壊滅的打撃を受けている。また,避難指示が解除されても,帰還しない事業者・顧客が相当数あると見込まれる以上は,商圏を喪失していると言えるから,一人自分だけ帰っても,先の見えない将来にわたって営業を継続することが現実的ではなく,受領済みの賠償金も含めた金銭を,もとの場所・事業に投資することはあまりに危険性が高いと感じてしまう。
2. 中高年者が経営者である小規模零細事業者は,壊滅的被害を受けた後,事業を再建するだけの意欲・体力を無くしている人もいる。特に,事故後,避難中の若い世代の後継予定者が帰郷する可能性がより少なくなり,事業承継者の不存在という意味でも廃業するしか選択肢がないと考えてしまう事業者がいる。
3. 人件費が比較的高額な除染事業などが影響して人材を取られてしまい,事業を再開するための人材確保が難しく,人件費が高騰しており,材料費や賃貸料なども上がってしまっている。事業を再開するにあたってより高額な投資が必要であり,そのような二次的被害が事業の再開の意欲を下げている。
(避難先で事業を再開出来ない理由)
以下のとおり,すぐには,方向性を選択ができない「曖昧な喪失」状態に置かれていることから,避難先でも事業を再開するのは難しい。
① 避難指示解除になることが予想される以上,故郷・地域復興のためには,仮に商圏が回復していなくても,地域復興を願う構成員である以上,やはり帰らなければならないのではないか。そうすると,今,避難先での投資が,余計な投資となり無駄になってしまう。
② 商圏が戻らない以上帰還し事業を再開しても早期に立ち行かなくなるのではないかという心配がある。その一方で,移転先や転業先には,既存の業者がそれぞれの商圏を有している。そこに参入するには多くの困難を伴うように感じてしまう。
→ この葛藤や迷い,究極の選択から抜け出し,一歩を踏み出すことは容易ではない。
2 政府の支援策や東電提示の賠償案は,この事業者の不安要素を解消することが可能な案か?
【新たな賠償方針へ 与党・政府】
1)平成27年5月29日 「東日本大震災 復興加速化のための第5次提言」(与党第5次提言)
2)平成27年6月12日 原子力災害対策本部・閣議決定「原子力災害からの福島復興の加速に向けて」改訂(福島復興指針)
「特に集中的な自立支援施策の展開を行う2年間において,東京電力が,営業損害・風評被害への賠償について適切な対応や国の支援展開に対する協力を行うよう,また,その後は,個別の事情を踏まえて適切に対応するよう,国は東京電力に対して指導を行う。」
「平成27年から2年間,集中的に自立支援策展開」(=避難区域内の8000事業所個別訪問)
【これを受けた東電の対応】
1)個々の事業者が自立に向けた将来の目途を立てられるよう,平成27年3月以降の将来分損害を年間逸失利益の2倍相当額とみなして,一括して支払い。
2)その後の個別事情も適切に対応
【疑問】
疑問1)自立支援策展開(=8000事業所個別訪問)?
① 本当に自立させるような支援策を提供できるのか。具体的な形が見えない。現在は2人1組(政府役人+東電社員)で,戸別訪問して単に事情を聞いているだけである。
② 既存の補助金などをご紹介するだけで,「利用しないのは,事業者自身の責任」とされないか?
③ 戸別訪問は,営業を継続する意思がないことについて言質を取られる機会になってしまうのはないか?
疑問2)「将来分の損害を年間逸失利益の2倍相当額とみなして,一括支払い」
そもそも,このような「終期」の指針については,法津上(原子力賠償責任法)は,原子力損害賠償紛争審査会が策定するはずである。中間指針では,営業損害の「終期」については,まだ,具体的に定めていない。
中間指針(平成23年8月5日)
「営業損害の終期は,基本的には対象者が従前と同じ又は同等の営業活動を営むことが可能となった日とすることが合理的」(二次追補でも言及)
四次追補(平成25年12月26日)
「営業損害及び就労不能損害の終期は」「避難指示の解除,同解除後相当期間の経過,避難指示の対象区域への帰還等によって到来するものではなく,その判断に当たって基本的には被害者が従来と同等の営業活動が営むことが可能となった日を終期とすることが合理的であり,避難指示解除後の帰還により損害が継続又は発生した場合には,それらの損害も賠償の対象になると考えられる。」
疑問3)「将来損害も含め」支払い=手切れ金? 実質「廃業補償」の意味ではないか?仮に廃業補償の意味なら,その廃業補償期間として十分なのか?
国土交通省の公共用地の取得に伴う損失補償基準の運用方針(平成 15 年 8 月 5 日
国総国調第 57 号)【営業廃止補償】
「転業に通常必要とする期間中の従前の収益相当額(個人営業の場合においては所得相当額)は,営業地の地理的条件,営業の内容,被補償者の個人的事情等を考慮して,従来の営業収益(又は営業所得)の2年(被補償者が高齢であること等により円滑な転業が特に困難と認められる場合においては3年)分の範囲内で適正に定めた額とする。」
(しかし)
① 原発事故被害の賠償は,不法行為による損害賠償請求を求めるものであって,適法行為により一部国民に「特別の犠牲」を強いた場合の損失補償とは,そもそも前提が異なる。
② 原発事故は,広範は被害を生じさせており,その周辺の商圏,取引先,従業員などすべて喪失してしまっているのであるから,到底2年間(例外3年間)などで「正当な補償」を支払ったとはいえないのではないか?
③ 公用収用の場合,計画(青写真)が示され,十分な説明の後に買収交渉,無理なら収用と時間をかけて手続を踏むが,原発事故の場合,突如計画もなく利用不可となるという特徴があるのであり,二次追補が言及するように特殊性を考慮しなければならない。
二次追補(平成24年3月16日)
(損失補償基準を判断の参考にすることは)「本件事故には,突然かつ広範囲に被害が生じた上,避難した者が避難指示解除後に帰還する場合があること等,土地収用等と異なる特殊性があることにも留意する必要がある。」
(避難指示等対象区域内の事例)
和解事例610 旧警戒区域でホテルを開業した直後に原発事故により廃業を余儀なくされた申立会社について,廃業に伴う逸失利益(4年分)と不動産の財物損害等が賠償された事例
※ 営業損害の期間と廃業補償の期間の関係をどう考えるべきか?
中間指針
・倒産・廃業した場合は,営業資産の価値が喪失又は減少した部分(減価分),一定期間の逸失利益及び倒産・廃業に伴う追加的費用等を賠償すべき損害とすることが考えられる。
・既に対象区域内の拠点を閉鎖し,事業拠点を移転又は転業した場合(一時的な移転又は転業を含む。)は,営業資産の減価分,事業拠点の移転又は転業に至るまでの期間における逸失利益,事業拠点の移転又は転業後の一定期間における従来収益との差額分及び移転に伴う追加的費用等を賠償すべき損害とすることが考えられる。
・「倒産・廃業した場合」及び「移転又は転業した場合」に逸失利益等が賠償されるべき「一定期間」の検討に当たっては,高齢者,農林漁業者等の転職が特に困難な場合や特別な努力を講じた場合等には,特別の考慮をすることとする。
※中間指針も公用収用基準も「高齢者」に配慮するように言及されているのに,現在の運用では全く高齢者への配慮がないと考えられる。
疑問4)東電のその後の損害は「適切に対応」を信じていいのか?
【東電】
(その後の損害を支払う条件)
「やむを得ない特段の事情により損害の継続を余儀なくされ,本件事故と相当因果関係が認められる損害が,今回の賠償額を超過した場合は,自立支援施策の利用状況も踏まえ,個別にご事情をお伺いにさえて頂いたうえで,適切にお支払い」
→ 要件が極めて厳しく,原則「払う予定はない」と言っているのと同義に見える。
※背景には,賠償額が本年2月時点で既に6兆円を超える現実(財務省・経産省)(日経電子版2016年3月2日)
3 東電提示の将来分損害を含む賠償を受領すべきか。受領すると争えなくなるか?
【予想】
一応,「将来分」として合意する以上,一定程度争うハードルは高くなる。
※中間利息を控除されることなく,将来分を受領すれば,2年後に請求したとしても,中間利息の控除分などは考慮されるのではないか?
→しかし,清算条項(債権債務無し)は存在しないので,争えないわけではない。相当因果関係の範囲内の損害は賠償するのが原則であり,任意交渉で「将来分」と記載があっても,また当事者間の知識・情報量の格差から考えても,それにADRや裁判所が制約されることは考えにくい。
4 「将来分」も含むとあるので,任意交渉では受領せず,ADRや訴訟で,現時点で,将来分の2年分を請求した場合のどのような和解案や判決が予想されるか?
ADRや訴訟は,原則,過去の損害を請求するものであり,事業を継続する限り将来損害を予め請求するのは難しいだろう(廃業損害を除く)。「1年分」しか支払われなかった事例で,残りの「1年分」の支払を求め和解仲介申立した事例では,センターから取り下げを促されているようである。
5 では,どのように営業損害の終期を設定すべきか?(どのようなADR・裁判基準を作るようにしていくべきか?)
【基本的視座】
・原発事故は,企業の財産のみならず,企業の復興基盤となる顧客・取引先の集積・事業インフラその他の営業基盤,物流環境その他の周辺環境を丸ごと破壊してしまうという先例のない加害行為であり,民法上想定されている従来の加害行為とは質が異なる。
・企業の存立基盤である周辺地域の顧客・取引先・事業インフラその他の営業基盤,物流環境等が丸ごと破壊されてしまった場合には,それまで周辺環境等から受けていた無形の利益も賠償しないと損害は回復しない。
・政府は,帰還を推進しているが,帰還しても生計が成り立つ見込みのない零細事業者・農業者などは,弱者として見捨てられていくおそれがある。廃業補償で終了という合理的理由はない。
・営業損害の場合,事業の多様性等にかんがみれば,賠償すべき損害の終期,事業拠点の移転費用,営業資産の移動費用等について,一律の基準を示すことは困難として,個別具体的に因果関係の立証し,柔軟かつ合理的な対応が重要であると主張。
中間指針
中間指針は基本的には「被害者が従来と同等の営業活動を営むことが可能となった日を終期とすることが合理的」との記載しかない(中間・2次追補)。→「本件事故により生じた減収分がある期間を含め,どの時期までを賠償の対象とするかについては,現時点で全てを示すことは困難であるため,改めて検討する」とあるが,事故後5年となる現時点でも審査会は基準を提示しておらず,不作為を続けているうちに,与党第5次提言・閣議決定(法律が予定していない機関が決定)
6 具体的にどのような法的構成をもとに争うべきか。
争い方<廃業した場合><移転した場合><転業した場合><帰還した場合>
(中間指針を前提とする争い方)
中間指針25頁
一般的には事業拠点の移転や転業等の可能性があることから,賠償対象となるべき期間には一定の限度があることや,早期に転業する等特別の努力を行った者が存在することに,留意する必要がある。8)倒産・廃業した場合は,営業 資産の価値が喪失又は減少した部分(減価分),一定期間の逸失利益及び倒産・廃業に伴う追加的費用等を賠償すべき損害とすることが考えられる。 9)既に対象区域内の拠点を閉鎖し,事業拠点を移転又は転業した場合(一時的な移転又は転業を含む。)は,営業資産の減価分,事業拠点の移転又は転業に至るまでの期間における逸失利益,事業拠点の 移転又は転業後の一定期間における従来収益との差額分及びⅡ)に掲げる移転に伴う追加的費用等を賠償すべき損害とすることが考えられる。10)8)の「倒産・廃業した場合」及び9)の「移転又は転業した場合」に逸失利益等が賠償されるべき「一定期間」の検討に当たっては,高齢者,農林漁業者等の転職が特に困難な場合や特別な努力を講じた場合等には,特別の考慮をすることとする。
1. 「一定期間」をどこまで認めさせるか?~特に「高齢者」事案,「農林漁業者等」(この「等」の範囲が解釈問題。転職が特に困難な事業であることを主張・立証)
2. 「特別の努力」の解釈により一定期間を可能な限り長くするような主張・立証
例)早期転業など
3. 廃業・移転に伴う「追加的費用」の解釈で争う。
4. 帰還した場合,損害の「継続」の解釈で争う。
(中間指針以外の構成)
5. 直截に営業基盤の損壊(商圏喪失)に対する賠償・・・算定をどうするかが課題
6. 生活保障的廃業損害の賠償~交通事故の後遺障害による逸失利益の賠償のように,67歳まで又は平均余命期間の半分程度の期間について,営業の継続を前提に算定された逸失利益の賠償・・・廃業と後遺症とを同等に扱うことができるかが課題
7. 端的に法人の慰謝料・・・営業損害としてではなく,他の無形的権利の侵害と構成することも理論上不可能ではない(cf.法人に対する名誉権侵害の賠償は裁判例でも認められている)が,賠償が認められるためのハードルは高く,実務上,賠償が認められるかは今のところ不明