09/06/2026
6月に発行する第一法規の原稿です。極めて高い水準の所得となっているので、一部の富裕層だけに関係するものと考えがちですが、株や不動産の売買で非経常的な利益を得たときも対象になります。気を付けなければならないのは、源泉ありの特定口座で取引した株の売却益も対象になることです。
いま知っておきたい!最近の税務トピックス
『極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置 ~ミニマムタックス~』
1.はじめに
ミニマムタックスとは「極めて高い水準の所得」に対する課税ルールです。金融所得等の占める割合の高い富裕層は、所得が1億円を超えると総合課税の超過累進課税よりも所得税の負担率が低下します。いわゆる「1億円の壁」です。これを是正するための措置が設けられました。
既に令和7年分の所得税から適用が開始されていますが、令和9年分の所得税から更に強化されて対象者が増えます。金融所得だけでなく、不動産の譲渡所得なども分離課税なので、令和8年中に売却を促すなどのアドバイスが必要かもしれません。
2.計算方法の見直し
ミニマムタックスの計算方法は下記のとおりです。
加算する金額=(基準所得金額-特別控除額)×税率-基準所得税額
①基準所得金額 総所得金額及び分離課税の所得金額を合計した金額
(申告不要制度を適用できる所得の金額を含みます)
注意! 源泉徴収ありの特定口座で運用している株の売却益も含まれます。
②特別控除額
(改正前) 3.3億円 → (改正後) 1億6500万円
③税率
(改正前) 22.5% → (改正後) 30%
④基準所得税額
申告不要制度を適用する所得を除いて計算した場合の申告書上の所得税の額及び
申告不要制度を適用した所得に係る源泉徴収税額を合計した金額
3.対象になる人と計算例
具体的に計算例を挙げて対象になる人を考えてみます。
(具体例1)
給与や不動産所得などの総合課税が1000万円の人が、3億円の分離課税所得を得たとします。
①基準所得金額 1000万円+3億円=3億1000万円
④基準所得税額 ミニマムタックス考慮前の税額 47,746,000円
(3億1000万円-1億6500万円)×30%=43,500,000円 ≦ 47,746,000円 ∴加算なし
(具体例2)
次に総合課税が1000万円の人が、3億5000万円の分離課税所得を得たとします。
①基準所得金額 1000万円+3億5000万円=3億6000万円
④基準所得税額 ミニマムタックス考慮前の税額 55,403,500円
(3億6000万円-1億6500万円)×30%=58,500,000円 ≧ 47,746,000円
∴加算される所得税額 58,500,000円-55,403,500円=3,096,500円
総合課税の所得が多くなると税率が上がるので、ボーダーラインの金額も上がりますが、改正後では分離課税が3億3千万円を超えたあたりから加算される所得税額が発生します。
4.令和8年の注意点
不動産を売却したときは引渡しをした日を基準として所得税の申告を行いますが、納税者の選択で契約をした日を選ぶこともできます。令和8年中に契約、令和9年に引渡しをした不動産について、令和8年に申告をした方が有利になることも考えられます。また、近いうちに売却を考えている不動産であれば、令和8年中に売却を考えた方がよいケースもありそうです。
株式等の売却であれば、数年に渡って利益を分散することも可能ですが、売却のタイミングを逃して、得られるはずだった利益が減るのも好ましくありません。得られる利益と増える税金とのバランスが大切です。
##プロフィール##
税理士 永井智子(ながい ともこ)
(社)アコード租税法研究会研究員。
『税理士業務に活かす!通達のチェックポイント』シリーズ(共著/第一法規)
ほか、論文・寄稿多数。